変化し続ける監督 北野 武が新たに挑む世界

それは笑いと感動の物語。 「次の作品は誰でも知っている「母を訪ねて三千里」みたいなスタンダードな物語を、暴力なしの演出で描ききってみたい」。
前作『HANA-B1』の97年ヴェネチア国際映画祭グランプリ受賞後のインタビューで、北野武はそう語った。デビュー作『その男、凶暴につき』(89)以来、映画の文法を壊し続けてきた北野演出の魅力は、台詞と説明カットを極端に切り捨てた"そぎ落としの美学"。突発的なバイオレンスを繰り出す主人公の心象風景を現すような、ブルーを基調としたその映像は"キタノ・ブルー"の名で世界に知れ渡った。そんな独自のスタイルを確立してきたにもかかわらず、彼の最新作は、ヴェネチアの約束通り、今までの作品イメージを大きく変える「笑いと感動」のドラマとなった。
勝手気ままに生きてきた大人に成りきれない主人公・菊次郎が、9歳の少年正男の母親探しの旅に付き合うはめになる。ふたりの「少年」たちが旅の中で様々な人や事件に出会い、現実の厳しさと人々の優しさにふれながら成長していくその数日の旅、浅草から豊橋までの往復600キロの行程を彩るのは、温かい日本の原風景。北野武は、母親探しの旅という、ポピュラーなストーリーをモチーフに、"人と人の距離の置き方"を素直な心で思い起こさせ、涙させる作品を作り上げた。

 

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